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院内機器紹介4 ~血液凝固系検査装置・炎症マーカー測定装置・ホルモン測定装置~
【目次】

動物病院で行う血液検査と一口に言っても、その内容は多岐にわたります。これまで、全血球計算(CBC)機器、生化学検査機器についてご紹介させていただきました。今回のコラムでは、当院で導入している血液凝固系検査装置・炎症マーカー測定装置・ホルモン測定装置の3つを取り上げ、それぞれがどのような役割を持ち、どんな場面で役立つのかをご紹介します。
全血球計算(CBC)機器のコラムはこちらから
院内機器紹介2 ~全血球計算(CBC)血液検査機器について 〜|あいづま動物病院|刈谷市・大府市で犬・猫・小動物の診療に対応
生化学検査機器のコラムはこちらから
院内機器紹介3〜生化学検査機器について〜|あいづま動物病院|刈谷市・大府市で犬・猫・小動物の診療に対応
血液凝固系検査装置とは

血液は体の中で「流れる」と「固まる」という二つの性質を併せ持っています。例えば怪我をした時に自然に出血が止まるのは、血液が固まる働き=凝固があるからです。しかし、この働きが弱すぎると出血が止まらず、逆に強すぎると血管の中で血が固まってしまい、血栓症といった命に関わる病気につながることもあります。
血液凝固系検査装置は、こうした血液の固まりやすさを数値で測定するための機器です。
ここでは、院内で測れる3つの項目をご紹介します。
PT(プロトロンビン時間)
血液が固まり始めるまでの時間を測る検査項目です。
主に「外因系」と呼ばれる凝固経路の働きを評価します。
・延長(時間が長い)=血が固まりにくい状態
・肝疾患、ビタミンK欠乏、ワルファリン中毒(殺鼠剤中毒)、DIC(播種性血管内凝固)などで異常が出やすい
APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
こちらは血液が固まるまでの別ルート(内因系)を評価する検査です。
PTとは異なる凝固因子をチェックします。
・延長=内因系の凝固異常
・先天性凝固因子欠乏症、肝疾患、DIC、重度の炎症や感染症などで延長することがあります。
PTとAPTTを併せて見ることで、どの凝固経路に異常があるかが分かりやすくなります。
FIB(フィブリノーゲン)
血液を固める材料(タンパク質)そのものを測る項目です。
凝固の原料なので、出血や炎症の評価に役立ちます。
・増加:炎症や感染症、妊娠
・低下:重度の肝障害、DIC、消耗性疾患
検査結果でわかること
・出血傾向のある病気の診断
・血栓ができやすい状態の把握
・手術や処置の前に安全性を確認する目的
特に手術前検査では必須といえる検査で、動物に安心して麻酔や外科処置を行うための欠かせないステップです。普段は元気に見えても、検査で初めてリスクが見つかることもあり、安全を守るための見えない安心を支える検査といえます。
炎症マーカー測定装置とは

炎症とは体が様々な外部からの刺激に対して起こす生体の防御反応であり、この炎症が起きているかどうか調べる指標が炎症マーカーです。
代表的なものの一つにCRPと呼ばれる「C反応性タンパク」があり、体内で炎症が起きている時に血液中で増加します。
SAA(血清アミロイドA)、α1-AGP(α1酸性糖タンパク)、Dダイマーという項目もこちらの装置で測定します。SAAはCRPよりもさらに早く反応することが多く、特に猫ではCRPよりSAAの方が炎症の指標として有用とされています。
CRP(SAA)測定が役立つ場面
・発熱や食欲不振、元気消失など原因不明の症状がある時
・感染症かどうかを早期発見したいとき
・治療の効果を数値で確認したいとき
α1ーAGP(猫)
α1₋AGPは炎症が比較的ゆっくり進行する場合や、慢性的な炎症の評価に役立つマーカーです。
Dダイマー(犬)
Dダイマーは、血液が固まり、それが分解される過程で生じる物質で、体内で血栓が作られている可能性を示す指標です。DIC(播種性血管内凝固)や重度の炎症、ショック状態などで上昇することがあり、命に関わる状態の早期発見に役立ちます。
これらを組み合わせて測定することで、急性炎症か慢性炎症か、どの程度体に負担がかかっているかを、より多角的に評価することが可能になります。炎症は目に見えにくく、「元気がないけど原因が分からない」というケースは少なくありません。その様な時にCPRなどを測ることで、体の中で炎症があるのかどうかを客観的に判断出来るのです。また、治療を開始した後にCRPが下がっていけば効果が出ていると判断できるため、経過観察にも欠かせません。日常診療の中でよく活用される項目です。
ホルモン測定装置とは

体の調子を整える司令塔のような役割を担っているのがホルモンです。ほんのわずかな量で体の働きをコントロールしていますが、その分、分泌の異常は体温、代謝、皮膚の状態、元気や食欲など日常の健康状態に大きな影響を及ぼします。しかし、ホルモンの異常は外から見ただけでは判断が難しく、「なんとなく元気がない」「最近太ってきた・痩せてきた」など、漠然とした症状として現れることも多いのが特徴です。
ここでは、院内で測れる4つの項目をご紹介します。
T4(総サイロキシン)
甲状腺が分泌するホルモンで、体の代謝をコントロールします。
・低い→甲状腺機能低下症(犬に多い)
・高い→甲状腺機能亢進症(猫に多い)
食欲の変化、体重の増減、皮膚や毛の状態、元気の有無に大きく影響します。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)
脳下垂体から分泌され、甲状腺ホルモン(T4)を調整するホルモンです。
T4とTSHをセットで測定することで、甲状腺の異常をより正確に診断できます。
COR(コルチゾール)
副腎が作るホルモンで、ストレス反応や代謝を調整します。
関連する代表的な病気
・クッシング症候群(副腎機能亢進)→COR高値
多飲多尿、お腹が膨らむ、薄毛、皮膚のトラブルなど
・アジソン病(副腎機能低下)→COR低値
元気消失、下痢・嘔吐、重症ではショックに至ることも
TBA(総胆汁酸)
厳密にはホルモンではありませんが、肝臓の働きを評価する重要な指標としてホルモン測定装置が用いられます。食後と空腹時のTBAを比較することで、肝機能障害、門脈体循環シャント(先天性の血管異常)などの検査に役立ちます。甲状腺・副腎疾患と同じく、外から見えない体の変化を数値で把握出来る項目です。
PRG(プロゲステロン)
主に卵巣から分泌されるホルモンで、発情周期や妊娠の維持に関わるホルモンです。犬では排卵時期の推定や交配適期の判断、妊娠確認などに用いられます。また、黄体遺残や発情異常の評価にも役立ちます。PRGは数値の変化が短期間で起こるため、院内で迅速に測定できることが大きなメリットです。繁殖管理だけでなく、ホルモンバランスの評価としても重要な検査項目です。
ホルモン異常の症状は年齢のせいと間違われやすい
ホルモン異常の厄介なところは、症状がとてもゆっくり、そして曖昧に進行する点です。「最近寝てばかり」「毛が薄くなった」「落ち着きがない」これらの症状は高齢の犬猫によく見られる変化ですが、実はホルモン異常が隠れていることも珍しくありません。こうした曖昧な症状の背景にある原因を数値として明らかにし、的確な治療に繋げます。
最後に
本記事では、院内機器である「血液凝固系検査装置・炎症マーカー測定装置・ホルモン測定装置」についてご紹介いたしました。
どの機器も動物の体の中で起きている変化を数値として捉えるために重要な役割を担っています。出血のリスクや炎症の有無、ホルモンバランスの乱れなどは、外から見ただけでは判断がつきにくいものであり、動物自身も体調の変化を言葉で伝えることが出来ません。だからこそ、こうした検査機器によって体の不調を丁寧に拾い上げていくことが、より正確で安全な診療に繋がります。当院ではこれらの機器を活用し、大切な家族が健やかに過ごせるよう、サポートしてまいります。